医師とクスリは使いよう 予防医療についてー内科医の逆襲ー後編
- arigatouashiya
- 3 days ago
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平成6年から令和2年の医療状況を比べると、医師数は4割ほど増えていますが、診療別科目別の医師数を厚労省の統計で比べてみると、平成6年比で医師数が減っている診療科目は産科婦人科と外科医だけです。

なぜ、医師数全体は増えているのに外科医は増えないのか。
原因のひとつはそれまでに外科医が増えすぎたことが考えられます。
古くは造船・製鉄企業、バブルのころは銀行・証券会社に新卒者が殺到し、成長が止まると求人がピタッと止まったのと同じ現象です。
次は診断技術の進歩がCTからMRI・超音波・内視鏡へと裾野が広がり、耳鼻科や整形外科など、胸部・腹部外科以外の領域でも応用されるようになりました。
診断装置だけでなく、治療技術の発展も続きます。
外科医と内科医は、内科医が病気を見つけて外科医が手術で病気をなおす、という役割分担を行っています。
それが、治療技術の進歩により消化器内科医が胃カメラ・大腸カメラを使ってガンを発見し、内視鏡でガンを切除する。
循環器内科医がカテーテルを使い、心臓の病気を発見し、開胸せずにカテーテルで心臓の血管を治せるようになりました。
トラブルが無い限りは内科医だけで治療が完結し、わざわざ外科医にお出ましいただかなくてもよい場面が増えというわけです。
外科で始まった『早期発見・早期治療』。
外科が潤った様子をみた内科医がこの流れを内科側に応用するまでには、さほど時間はかかりませんでした。
CTなどの医療の進歩により、死因の首位は悪性新生物すなわちガンとなりましたが、高齢化が進むにつれて増えるもう一つの病気、脳血管疾患も大きな部分を占めています。
この病気で主たる原因と考えられていたのは高血圧はじめ高コレステロールなど、生活習慣病です。
・早めに血圧を下げないと脳出血で死んでしまいますよ。
・早めにコレステロール値を下げないと血管が詰まって脳梗塞で寝たきりになりますよ。
・血糖値が高いと糖尿になって、足を切断しないといけなくなりますよ。
等など…
SPRINT試験という、高血圧の人の血圧をユルい管理:140mmHg以下にするか、キツい管理:120mmHg以下にした方が良いかを調べた調査があります。
詳細は省きますが、後遺症のない人から死んでしまう人まで含めて、脳卒中・心筋梗塞になる人が1年間にユルい群で2.15%・キツい群で1.63%発生しました。
これは統計学的に有意差があり、血圧の管理はキツくした方が良い結果が出る、と大きく評価されました。
これを表現するのに
キツい管理をした方がユルい管理をするのと比べ1年間で
・患者の発生を25%減らす事ができた
・患者の発生を全体の0.52%減らせた。
・192人治療すると、1年間で1人の患者の発生を抑えることができる
と言い表せます。
どう表現しても間違っていません。
ちなみに最近、銀行の普通預金の利息が0.01%以下から0.1%に上がりました。
1年預けると確かに金利の差は、はっきりと利息の差となって結果がでます。
その差を表現するのに1万円預けて1年で9円しか増えないと言っても、利息が10倍になったと言うのも、差は確かに存在するのでどちらも間違ってません。
大きな差はないのですが、様々な大規模臨床試験で血圧・コレステロール・血糖値を下げたほうが長生きするという結果が出たことが早期発見・早期治療の流れを加速させました。
貯金が大好きで、多くがアリとキリギリスのアリ側にいる日本人。
キリギリスにならないように、高校時代に遊ぶのを我慢して、アリのように勉強して勝ち抜いてきたエリートが牛耳るマスコミ業界。
「○○しないと大変なことになりますよ」と「○○じゃなくても大丈夫」のどちらを取り上げるかは火を見るより明らかです。
こうして、1人が助かるために192人が必要という事実が、25%減らせると表記されニュースや健康番組などを通じて「早期発見・早期治療」が啓発されています。
また、マスコミは民間団体です。
クスリの市場を拡げるとスポンサー企業・団体にもメリットになり、広告料や取材対象の増加という果実をマスコミ各社にもたらします。
私が学生の頃、高血圧の治療は
・上の血圧(収縮期血圧)が180mmHgを超えれば、即治療開始
・同じく160mmHgを超えれば3ヶ月の生活指導を行い、160mmHgを下回らなければ治療開始
というものでした。
言い換えると、高血圧の基準は160mmHgでした。
しかし、2000年に日本高血圧学会が140mmHg以上を高血圧と定義しました。
2019年高血圧ガイドラインによると日本人の高血圧患者数は4,300万人。
日本人の1/3が治療対象になり、非常に大きな市場が誕生しました。
NIPPON DATA という日本全国の国民2万人が対象の生活習慣病に関する調査があります。
この調査によると、1980年から2010年まで、男女とも60歳以上になると概ね2/3が高血圧、70歳以上になると3/4が高血圧とのことです。
降圧剤メーカーからすると、スゴイ市場です。
これに加えて、厚生労働省:令和元年国民健康・栄養調査によると、男性は30歳をすぎると2-3割、女性は更年期から増え始め、70歳以上になると、4割の方が高コレステロール血症の疑いがあるようです。
さらに同調査では日本人の糖尿病の疑い・予備軍は2,000万人と、成人の5人に1人は該当するとされます。
令和4年度国民医療費の概況によると、高血圧性疾患の医療費は1兆7,050億円、糖尿病の医療費は1兆1,197億円。
そのすべてが治療の基準が変わったために増えているわけではありませんが、莫大な金額です。
ともかく、早期発見・早期治療は肝臓・腎臓の領域をはじめいろいろな領域に広がり、疾病啓発のCMで「お医者さんに相談を」が拡がっています。
相談にどう答えたらええか教えて貰うてないのに、相談されても困んねんけど・・
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