検診と基準値、制限速度と取り締まり その2
年齢を重ねると、血圧やコレステロールを筆頭に健康の話題が多くなります。
検診では血圧測定や血液検査などを行い、異常があるかを調べます。
正常/異常、と言うからには基準があります。
血圧を例に挙げると、現在、日本医師会の基準値は130/85mmHg以下です。
人間の身体は概ね変わっていませんが、基準は医療の進歩?とともに移り変わっています。例えば血圧はかなり昔の先生なら『年齢+90までが正常』。
私が医師になった頃は『180を超えたら即治療開始。160以上なら様子を見てから治療を開始』といったところでした。
検診で引っかかった人の割合を『有所見率』と言いますが、各項目の有所見率は血中脂質(コレステロール、中性脂肪)の32.69%を筆頭に、血圧とか肝臓の検査とかも含めた全検査の有病率は53.2%に達します。(私も日本医師会の会員ですが、三分の一が異常と判定される基準値には疑問を感じつつ、基準は基準なので、基準値を超えると要指導、要治療などの意見を添えます。)
『血圧やコレステロール値が高いと危険』と巷間で言われていますが、多少高い程度では痛いとかしんどいとかの症状は特になく、日常生活でも全く困りません。でも血圧が高いと会社の総務や市役所(保健センター)から『異常値が出ているので受診しなさい』という報告が回ってきます。
血圧やコレステロール値が多少高い程度では動脈硬化の進行に差が出る程度で、その結果がはっきりするのは数十年後です。スピードを出してクルマを飛ばしても、その時は何も不具合はありませんが、ガソリンの給油やタイヤ交換の周期は早くなります。どちらもその瞬間は何も問題がない、ということでは共通しています。
そして、制限速度を守って安全運転していても思わぬ故障や事故は起こるように、基準値以内に収まるよう薬を飲んだり気をつけていても脳卒中や心筋梗塞は起こります。
血圧もコレステロールも基準値に収めようとすると、禁酒であったり減塩であったり体重を落とす減量であったり、したくない運動をせねばならないと言われたりします。素直に出来るひとは良いのですが、多くの人は旨いものも食べたいし、冬の寒い時期や、何もしなくても汗がダラダラ出るような夏に運動したくありません。
こういう制限をするとストレスが貯まります。私もダイエットして体重を10kg以上落としたことがありました。それはそれはひもじい思いをして大いにストレスが貯まったものです。
動脈硬化は加齢とともに進んでいきます。もともと正常といわれているひとも含めて、我慢して節制し、薬を飲んで基準値に収まっても、年齢が上がってくると脳卒中・心筋梗塞といった動脈硬化による病気は増えてきます。
内科医にとって悩ましいのはその動脈硬化が、加齢の所為なのか高血圧やコレステロールの所為なのかがはっきり判らないことです。
当院ではそのあたりの原因を追求することはやめています。
現状の把握のみ行っていいます。
加齢を受け入れつつ生活習慣改善のストレスから逃れるか、ストレスを感じ続けながらも抗加齢、長寿命を目指すか。
どちらにせよ、患者さんの選択に沿った治療を行います。
※極端に数値が高い場合(クルマにたとえると一発免停の場合)は頭痛、めまいなどの症状に始まり、脳出血や心不全など、死につながる病気もあるので、すぐにお近くの病院を受診して下さい。
私の検診結果はスピード違反で捕まるけど一発免停にはならないレベルです。
薬は飲んでません。
私の死生観は良寛先生の『 人間、死ぬる時節には死ぬがよく候 』なので。